IGETA MASAOMI

「VOCA展」展覧会カタログより

 これまで井桁の絵画はレリーフの支持体(木製パネル)の構成と、色彩自体のダイナミックな視覚的効果とが緊張感をもち、その色彩の広がり・運動によって豊かな光のイメージをつくりだしてきた。今回の2点の新作では、支持体を綿のカンヴァスに変えている。アクリルをカンヴァスにしみ込ませるステイニングで描いた、色彩の混沌とした、大きなうねりは生命感にあふれ、咲き乱れる花のように光輝いている。ゆれ動き、凝集し、拡散する光のイメージ。井桁が意図したことは色彩の輝きの「精製」であったが、同時にここでは「描くこと」が純粋に身体の快い解放にもなっている。

 一年前の冬に見た《光の地平、永遠の雪》はレリーフ絵画で、中央部が凹んでいるパネル(木製)6枚を並べて構成していた。オレンジが主に使われ、濃密ともいえるその色彩の広がりは、支持体の形式や構成と一体となっていて、そこに荘厳な雰囲気が漂う。井桁は、雪の降る夕暮れに美術館の外から展示室のガラス越しにこの作品を見た時、強い発色というか、色彩のエネルギーのようなものを感じたという。偶然の状況が光のイメージと内なるヴィジョンを一致させたというべきであろうか。井桁の絵画の根源となっているのはこうした光のヴィジョンである。

浅川 泰/北海道立帯広美術館副館長
2003年

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