透明感のある鮮やかな色彩が画面の上を軽やかに舞う、札幌在住の井桁雅臣の作品。31日まで札幌芸術の森美術館で開かれている美術展「真冬の花畑」に出品している彼の作品は、華やかな花のイメージとともに、思い出の風景の中の光や風、匂い、音楽などが静かに呼び起こされるような気持ちになる。
彼が新たな絵画の可能性を考え追求する長い時期を経て感じたのは、自分自身が心から描く喜びを感じられることの大切さであったという。綿地のキャンバスに絵の具を染み込ませる「ステイニング」という技法は、まさにそれを体現するものであった。思いのままに筆を動かし見つけた快い軌跡を、たっぷりと水を含ませたキャンバス上に何度も重ね、色彩の純度を高めていく。滲んだ輪郭は、境目がはっきりとしないつかみどころなさを生み、その色彩の広がりに最終段階でパステルの描線で形をとらえて凛とした気配を与えている。
一生のなかで最も美しい姿をみせる花の輝きのように、彼が最も気持ちのいいと思う純粋な色と形による世界は、人々の心の奥の遠い記憶にやさしく響いてくる。
吉崎 元章/札幌芸術の森美術館副館長
北海道新聞 2010年(平成22年)1月11日(月)朝刊掲載